建設コンサルタントが企業買収M&Aするのは珍しくはないのです。
8月1日に八千代エンジニアリングのHPにシステム開発会社のウエルストーン社を買収したというニュースが掲載されていますので、その記事をもとにして何が起きているのか推測を交えて紹介します。
企業買収M&Aとは
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)の略であり、資本の移動を伴う企業の合併と買収を意味します。
買収する側(八千代エンジニヤリング社)
買収される側(ウエルストーン社)
八千代エンジニヤリング社がウエルストーン社を買収して100%子会社としたということです。
国内でのM&A件数(1~12月集計)は、レコフデータ調べによると
2019年 4,088件
2020年 3,730件 コロナによる影響で減少
2021年 4,280件 過去最高
の膨大な数のM&Aが実行されています。
M&Aには、合併や買収の形態があります。今回の買収は、最も分かりやすい100%株式譲渡をした案件です。
八千代エンジニヤリングはなぜウエルストーン社を買収したか
ニュースから転載します。
当社は本提携によって、顧客に対するICT関連サービスの提案力を強化し、コンサルティングサービスの高度化・高付加価値化を目指してまいります。
近年、建設・土木分野では、デジタル技術の進化を背景に、ドローンやAI、5G通信、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のような新しい技術の導入が急速に進んでいます。
当社も2018年に発表した長期経営方針において、ICT分野を強化ドメインに位置付けて、BIM/CIMソリューションやクラウド型維持管理システムなどのサービスを開発し、顧客へ提供してまいりました。更なるICT分野の取り組みを強化するべく、当社はシステム開発の豊富な実績と多数のシステムエンジニアを擁するウエルストーンの全株式を2022年7月29日(金)に取得いたしました。
ウエルストーンは、システム開発のワンストップサービスやRPA開発、ICTコンサルティングでも豊富な経験を持ち、当社が長期経営方針で目指すICTサービスを推進する戦略の一つになり得るものと判断しました。
グループ会社としてウエルストーン社と緊密な連携を図ることにより、官公庁を中心とする顧客への提案力を強化するほか、ICTをセールスポイントとする新規事業の企画開発の強化を進めてまいります。
以上が八千代エンジニヤリング社のHPに記載されている内容です。
ICTサービスの実績を有するウエルストーン社の技術を活用することで、八千代エンジニヤリング社が目指すICTサービスの強化を図るということらしいです。
少し疑問な買収?
ウエルストーン社のHP(https://www.wellstone.co.jp/)を拝見して事業内容を見てみると、
・建設分野での開発実績がない
・公共分野の実績が少ない
・GISやCADといった建設業界特有のシステム実績がない
・AIやIoTといったシステム開発実績がない
などといった状況です。
最近の建設分野ではGISやCADしかも3D-CAD全盛です。この分野のシステム開発技術を習得するには、現状の技術者だけでは対応が無理と思います。新たな人材養成や中途採用など行わないとシナジーが生まれてこないのでは思います。
ウエルストーン社のお知らせにもはっきりと「八千代エンジニヤリング社は建設コンサルタント業の会社で、我々とは全くの異業種となりますが、これからはグループ会社としてシナジーを生み出すべく協業していくことになります。」と記載されており、努力してシナジーを生み出すとあります。
これは、全くの私見でウエルストーン社の会社実態についてはHPでしか把握していないレベルの感想ですが、はっきり言って、この買収でシナジーが得られるのだろうかと疑問に思います。
大手建設コンサルタントの状況
大手の建設コンサルタントで子会社にシステム開発会社をグループ会社に抱えているのは下記に示すようです。(各社HPからの情報収集)
親会社 | 子会社 |
日本工営(株) | (株)コーエーシステム |
パシフィックコンサルタンツ(株) | (株)トリオン (株)三栄技研 |
(株)建設技術研究所 | なし |
(株)オリエンタルコンサルタンツ | (株)リサーチアンドソリューション |
(株)エイト日技開発 | なし |
八千代エンジニヤリング(株) | ウエルストーン(株):今回の買収 |
(株)日水コン | なし |
(株)パスコ | (株)GIS関東 |
(株)長大 | 順風路(株) (株)エフェクト |
大手の日本工営、パシフィックコンサルタンツは、100名規模のシステム開発会社を保有しています。建設技術研究所はグループ会社の中にシステム開発会社が見当たりませんでした。多くの業務でシステム開発業務案件もあるかと思いますがどのように対応しているのでしょうか。
長大が保有している2つの子会社は、それぞれ特徴があって今後の発展が期待できそうに思えます。
いずれの会社もGISなどの要素技術を十分に把握してシステム開発ができる体制です。そんな中で八千代エンジニヤリングの今回の買収会社は心もとないように思われます。
まとめ
大手の建設コンサルタントでは、システム開発子会社を保有しているようです。そんな中で八千代エンジニヤリングもM&Aと手段でシステム開発会社を買収し子会社化したわけですが、買収した側もされた側もシナジーがあるように思われない。というのが率直な感想です。
買収に至った目的に対して全然マッチングしていない買収事案のように思われます。
上場会社なら株主総会で問題提起されるのではないかと思われます。私が株主なら経営責任を問いたくなります。
八千代エンジニヤリングは、さまざまな新しい案件にチャレンジして雰囲気は好きな会社なのですが、この買収事案については、疑問がわきます。
少々、辛口な評価をしましたが、どう考えても「この買収はありえないのでは」と思い投稿しました。
コメント
いつもためになる情報をありがとうございます。私は転職エージェントに勤めているのですが、昨年から建設コンサルタント分野を担当することになり、途方にくれていたところこちらのブログを知りました。わかりやすい、土木系の学生さんもきっととても参考になる内容です。kenkonさんの更新が最近無いので心配しておりましたが、ご転職の為と書かれているのを見て安心いたしました。また落ち着かれたら更新を楽しみにしています。